すでに山梨での会期を終えた展覧会となるが、「シダネルとマルタン」展 最後の印象派-色彩の詩情、光の神秘- を見てきた。
山梨県の甲府市にある山梨県立美術館。1978年に開館し、ミレーの美術館として親しまれているらしい。静岡県立美術館に「ロダン館」があるように、ここにも「ミレー館」がある。ただ館とは言っても美術館内の一角という感じでそれほどの規模では無い。それでもあの「種をまく人」や「落ち穂拾い、夏」という代表作をコレクションしているのでそれだけでも見る価値がある。
美術館は芸術の森公園内にあり、様々な彫刻・作品がちりばめられており、その中でもこのリンゴは特に目を引く。
ミレー館に入るとまずこの絵が飛び込んでくる。「ポーリーヌ・V・オノの肖像」(1841-42頃)。
ミレーの最初の奥さんになった美しい女性なのだが、身体があまり丈夫で無かったらしく、結婚後3年・22歳で亡くなってしまった。農民画で有名なミレーがこんな肖像画を描いていたのはちょっと意外だった。
館内には「富士見の窓」という場所があり、真正面に富士山を望むことができる。
さて、今回のメインはこのシダネルとマルタンだ。
限られた作品のみとなるが、写真撮影も可能となっていたのが嬉しい。
まず最初に展示されていた印象的なこの絵はアンリ・マルタンの「野原を行く少女」だ。
輪郭線を残さないすごくソフトで繊細な画風。ちなみにこれはマルタンの姉妹・アデリーヌをモデルに描いた物。詩人の詩に着想を得た、独自の画風の確立と家族への親愛を示す最初の作品とのこと。このふんわりとした雰囲気と太陽の光を表現することに自分自身もすごくこだわっていたらしい。
エタプルは19世紀末、シダネルが過ごしたフランス北部の小さな港町。画面奥には海が見えるから、海岸にほど近い牧草地に佇む若い羊飼いたち、といったところ。影が長いから状況から見ると夕方なのだろうか。
これはいいなあ。優しい月明かりの下、雪に覆われた小さな教会。夢の中に出てきそうな美しい世界だ。
正直、この絵にはあまりひかれるものを感じなかった。なんかゴッホ的な雰囲気があるからなのか。自分の中で勝手にマルタンらしさが無いような気がした。
これ、これだよ!マルタン、すごいよ!雨が降ったそのテラス、濡れたところが反射している描写が美しすぎる。しかも空が明るく、花々の色の鮮やかさが太陽の光を感じさせる。
もう、絵の前でガン見していた。お客さんも少なくゆっくりとなめ回すように。
最初の月明かりの教会の絵から年月が経った作品なのだが、今度は画面上に月が現れ、幻想的な宮殿の噴水情景が描かれている。
これら合計6枚の絵が撮影可能なものであり、当たり前だが他にもたくさんのいい絵が紹介されていた。驚くべきはほとんどの絵が個人蔵なので、こういった形で外国での展覧会を開くのは大変だったのではないかと推察する。そういった意味でも貴重な、知られざる印象派を見ることが出来たと感じた。
全く今まで聞いたことも無い「マルタンとシダネル」。日本でもほとんど知られていない画家だと思われるし、最初は見に行くかどうかも迷っていたくらいなのだが、その二人の作品はとても素晴らしい美しさを持っていて本当に見れて良かった。どっちが好きかと言われればちょっと薄暗い霞がかったような情景を描くシダネルが好みかなあと感じるが、マルタンの美しい光を感じさせる優しげでソフトな女性の絵も素晴らしい。
広島、山梨を巡回した後は
2022年3月26日から約3ヶ月間、東京に巡回して日本で見られるのは終わりとなるようだ。新しくなったSONPO美術館にもまた行ってみたいなあ。
※参考資料 「シダネルとマルタン展」公式カタログ
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